夜明けの青い丘
花海の縁に立つ

夜明けとともに丘を訪れた璃奈(りな)は、眼下に広がる光景に思わず息を呑んだ。地平線まで続く青——無数のネモフィラが、早春の柔らかな光を吸い込んで、静かに波うっている。
薄い白のドレスがそよ風にはためく。露わになった鎖骨に、冷たい朝の空気が触れた。
「こんなに……きれいなんだ」
璃奈はつぶやき、そのまま丘の斜面をゆっくりと歩き始めた。足もとに揺れる小さな青い花たちが、まるで彼女を迎えるように、首をかすかに傾けている。
青に染まる朝
春の光が銀色の髪に溶け込み、紫の瞳に青い世界をうつしていた。どこまでも続く花の絨毯を前に、璃奈はただそこに立ち尽くした。
言葉が要らない朝というものが、あるのだと知った。
花の海に身を委ねて
春の微睡み
どれほど歩いただろう。気がつけば璃奈は、花の絨毯の真ん中にそっと体を横たえていた。薄いドレスが青い花々の中へと広がり、白い肌と鮮やかな青のコントラストが、夢の中の絵画のような情景を描き出す。

頬にほんのりと朱が差し、半開きになった唇からかすかな吐息が漏れた。まぶたがゆっくりと落ちていく。
「ここで、ずっと眠れたらいいな……」
春の日差しが柔らかく肌を包む。花びらがひとひら、ふたひら、薄いドレスの上に降り積もった。
青に溶ける白
遠くでひばりが鳴いていた。それさえも夢の続きのように、璃奈の意識の奥へと沈んでいく。
風が凪いだ瞬間、この丘には彼女の吐息と、花たちの静かな揺れだけが残った。
微睡みの女神
夢と現の狭間で
うっすらと開いた紫の瞳が、こちらをとらえた。それがこちらを見ているのか、あるいはまだ夢の中にいるのかさえ、わからない。

銀色の髪に青いネモフィラの花びらが散りばめられ、濡れたように艶めく唇が静かに開いた。頬の赤みが、彼女の夢の深さを物語っている。
「……もう少しだけ、このまま」
彼女は再びまぶたを閉じた。青い花海の中で、微睡みの女神は静かに夢の続きへと戻っていく。春の風だけが、その銀髪をそっと撫でながら、丘を渡っていった。