雛壇に、息を呑む
凛として、されど艶やかに
三月三日、金屏風が室内の灯りを柔らかく跳ね返す中、都(みやこ)はひとり雛壇の上に座していた。幾重にも重なる十二単の衿元から、白く細い首筋がしずかに覗いている。
豊かな黒髪はいつもより丁寧に整えられ、長い睫毛が伏せられるたびに緋毛氈の緋色がその頬へと反射した。格式張った衣の重みが、かえって彼女の柔らかさを際立てていた。

視線の先に宿るもの
やがて都はカメラへと視線を向けた。まっすぐで、それでいてほんのり頬の染まった眼差し。唇が微かに開かれ、言葉にならないものが、そっと空気に混じる。
衣の重なりが動くたびに、衿元の白さがちらりと揺れた。雛祭りの荘厳さの中に、確かにひとりの女の鼓動が宿っていた。
桃の花に、手が触れるとき
着崩れの、一瞬
飾り台の端に添えられた桃の花が気になったのか、都は少しだけ身を傾けた。その刹那、外衣がするりと肩から滑り落ちた。
重なり合う布の狭間から白いレースが覗き、都は思わず目を丸くした。しかし、こちらを見返すその瞳には、恥じらいと同時に、どこか挑むような甘さが静かに揺らいでいた。

視線の、かけひき
「……見てたの?」
都の声は低く、けれど責めるような響きはなかった。むしろほんのりと弧を描いた唇が、それが少しも嫌ではないと語っていた。桃の花びらが一枚、静かにふたりの間へ落ちた。
宵の帳、灯りの揺れる座敷で
解けていく、格式の衣
宴もたけなわ、蝋燭の橙色が畳の上を柔らかく染める頃、都はゆったりと腰を下ろした。昼間の厳かな装いはほどけ、大きく着崩れた和服の裾からは、白いレースのニーハイソックスが月光に輝いていた。
散り敷いた桃の花びらが彼女の膝元を彩り、夜の座敷に甘い香りが漂っている。凛としていた女雛が、今は夜の柔らかさをまとって微笑んでいた。

囁き、宵の終わりに
都は伏し目がちに指先を畳に滑らせながら、ふとこちらを見上げた。その瞳に蝋燭の炎が揺れている。
「ね、今夜はもう少しだけ、一緒にいてくれる?」
囁きは静かに、しかし確かな熱を帯びて夜気に溶けた。桃の花びらがまた一枚、音もなく舞い降りる。雛祭りの夜は、まだ続く。